前回の第1巻の冒頭について書いてから、しばらく続きを書けていない。まずは仕事が鬼ほど忙しいこともあるが、結局「書評を書くために再度読む」ことがいやなのだ。
紡木たくの世界――とりわけ『瞬きもせず』の世界――は、霧雨が香るほど静かである。だから、前回の書評のように、その作品(第1巻)を目の前に置いて、それを見ながら正確に書き記すよりも、昔読んだまま自分の心の中に静かに沈んでいって、記憶になってしまったその微かな香りのような世界だけわたしは書きたいのだと気づいた。
『瞬きもせず』の世界を思い浮かべている。
高校生の二人が雨の公園でデートしていた。
二人はたしかロープウェイのようなものに乗っていた。
静かな静かな景色
「シャー」
というオノマトペがひとこと。
静かな時間。
二人だけの時間。
何もなかった時間。
でも一生忘れない時間。
あれは何巻の何ページだったかなあ。