この1ページ目から音が聞こえる。夏のクラブの練習日。金属バットのノックの音。フェンスのこちら側は木陰になってて、向こうの広い校庭はあふれる光でまぶしくて見えない。球児たちの自転車か、その他の生徒たちのものか、無造作に置かれた自転車が木陰に肩を寄せ合っている。たぶんこの自転車で、みんなでパンを買いに行ったり、川原に遊びに行ったりするのだろう。
この最初の一コマを黙って見つめているだけで、生徒たちの笑い声が光と蝉しぐれの中に包まれて聴こえるような気がする。
次のコマはのんびりした田舎の山と空。見通しのよい道路に沿って高いフェンスが張られてあり、描かれていなくてもそこにグランドが広がっているのだろうということがわかる。運動部の男子が一人走り込みをしている。
蝉の鳴き声。
近所の田んぼでは草引きをしているおじさん。
麦わら帽子。
部活終わりで顔を洗う。汗がまつ毛についてキラキラしてる。
校庭から校舎に入ると、そこはしんとして、ひんやりしてる…
そういう、すごく小さなことを、大人になっても忘れない出来事として、やさしく丁寧に描き切る。
かよの髪の毛の柔らかさとか、Tシャツをまくり上げた紺野くんの肩の筋肉とか、そういう「ちょっとしたこと」をどこまでも大切にする。本当にこの本を買ってよかったと思った。
誰もが自分の高校時代に感じていたような切なさやもどかしさを、
この時代にこの場所でしか出会えなかった人たちの一回きりの物語にして描いた。
山口弁。
この本を読んで生れてはじめて自分の使う方言(わたしは大阪弁)よりも好きになる方言ができた。
(第2巻につづく)